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Date INSTRUCTOR INTERVIEW

“うつわ”がつなぐ気づきの世界

2018.04.24 藤川 稔 | 陶芸家

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デイトで陶芸のワークショップを担当している藤川稔さん。多彩でユニークな自身の創作活動と、ワークショップにかける想いを伺いました。

言葉を重ねるように土を積む

若い頃から360度どこからみても表現できるものに魅力を感じていました。中でも、彫刻のように削って形をつくるのではなく、「足す」造形に心ひかれ、陶芸の道へ。言葉を重ねるように、土を積み重ねていく行為に魅力を感じています。ずっと手がけているのは生命体をモチーフとした立体表現のシリーズです。実物は高さ70㎝ほどあり、実際に見てみるとかなり存在感があります。紙面に描き起こしたイメージを設計図代わりに、下から土を積み上げていきます。表面の細かい繊毛はパーツを1本1本乗せていくことで表現しています。乾くと土どうしがくっつかなくなるので、作品にラップを巻いて乾燥を防ぎながら、少しずつ積み上げていきます。非常に根気の要る作業で、毎回、神経をすり減らしながらつくっています(笑)

叢との縁で誕生した「陶サボテン」

生命体シリーズとは別に通称「陶サボテン」も2016年頃から手がけています。同じ生命体でも、全く作風が違うでしょ(笑)あちらはフィクション、こちらは実在する生命体であるサボテンをモチーフにしています。この「陶サボテン」は「叢(くさむら)- Qusamura」*の小田さんとの縁で誕生しました。小田さんとは彼が叢を始める前にやっていた花屋の一角で私が陶芸教室をしていた時からの長い付き合いなんです。陶芸教室の他にも、叢のサボテンを受けるうつわを私がつくるという縁もあり、そこからある日、小田さんに「植物そのものを陶でつくれないか」と相談されたんです。

※「叢- Qusamura」は植物とその植物の魅力を引き出すうつわをセットで提案する植物屋。「ユナイテッドアローズ」「ビームスジャパンギャラリー」「パルコミュージアム」等での展示会やインテリア誌などで多数掲載されるなど幅広い活動を行う。

色の再現に2年を費やす

それからは試行錯誤の連続でした。生命体シリーズで植物の質感を再現する技術は身についていたのでそれほど難しくはないだろうと思っていたのですが、色の再現で壁にぶつかりました。モチーフとなる実物のサボテンの色と陶のサボテンの色を比べながらさまざまなパターンで最適な色を探す日々。特に焼きあがりの色を合わせるのには苦労して、満足のいくものが出来上がるまでに2年の歳月を費やしました。壁掛けのオブジェは叢の展示会で、実物のサボテンたちと並んでお披露目されました。特に、写真でみると本物のサボテンとの区別がつかないと思います。その後、壁掛けの「陶サボテン」はインテリアショップのCIBONE等で販売されるようになりました。最近はぐいのみ型の「陶サボテン」もつくっています。うつわとしても使えるし、使わないときは伏せておくと、サボテンが地面からニョキっと顔を出しているみたいに見えるんですよ。

オブジェから使えるうつわまで

こういった自作の活動に並行して、大学や専門学校、デイトを含む陶芸教室で、長年講師をしています。わたしの生徒さんたちは技術も、陶芸への関心の度合いも作りたいものもさまざま。わたしは基本的に「これをつくれ」とは言いません。本人がつくりたいものを自由な発想でつくって欲しいんです。やはり「使いたい」から「作りたい」ひとが多いけれど、「使えない」もの、飾るだけのもの、意味のないものでもなんでもいい。私がすることは、つくりたいもののアイデアを聞いて、それがつくれるようにアドバイスやヒントを出すことです。もちろん必要に応じて手直しもしますが、あくまで生徒さん自身がつくりたいものを仕上げるためのサポートという感覚です。逆に、ルールで縛られるのが苦手なタイプの方は、思いきりのびのびと制作できる教室だと思いますよ。

ルールのない陶芸教室

デイトの生徒さんは特に未経験からスタートの方が多い印象です。「陶芸教室」と聞くと敷居の高さを感じられる方が多いと思いますが、「興味があったからやってみたかった」という方もデイトにはたくさんいらっしゃいます。街の真ん中にあって、仕事帰りに気軽に寄れて、明るい空間で、かっこいい窯まであるので、陶芸へのハードルがかなり下がるのでは。ワークショップは1回完結型なので、単発で来て好きなものを作って終了、でもいいのですが、実は1回つくるともっとつくってみたくなる人が多いんです。自分でつくったものを使ってみると、あるいは眺めてみると、次はこうしたい、ああしたいと、意欲が掻き立てられるんですよね。それを繰り返していくと、自然と自分らしい作品ができてくるのも陶芸の面白いところです。

せっかくなので決まりのない世界を楽しんで

土をこねて焼く陶芸の世界も幅広いので、せっかくつくるならお店で売っているようなものより、世界にひとつだけの自分らしいものをつくったほうが面白いと思うんです。工場で大量生産された折り目正しいうつわが「正解」ではないので。わたしも「正解」を教えようとは思っていませんし、そもそも「正解」なんてありません。どこかにあると思い込んでいる幻想の「正解」に近づけることを頑張るのではなくて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら、そしてそれを楽しんでもらえたら。それは、例えば真っ白な皿に筆で色を乗せてみるだけでもできることなんですよ。失敗したら嫌だなって思うかもしれないけれど、そこは思い切って色を乗せてみる。そんな小さな一歩をきっかけに、どんどんまだ見ぬ世界を発見してもらえたらと思います。

「受ける」うつわが広げる世界

うつわって「受け」なんですよね。料理を受け、酒を受け、花を受けるのがうつわ。だから、うつわをつくると暮らしにリンクしていくんです。このうつわにどんな料理を、酒を、花を、どんな風に合わせようか、と関心がつながっていく。さらには、例えば花屋でみつけた花に、どんな花うつわが合うかなと考えてみたりして、今度はリンクが返ってくるんです。だから、もし今強烈につくりたいものがなかったとしても、気軽な気持ちで何かつくってみてほしい。それが日々を豊かにするきっかけになると思うので。そして、そういう小さいきっかけの積み重ねが暮らしをつくるんだと思います。よく行く料理屋のうつわが気になりだすとか、普段素通りしてきた「みえないもの」が見えてくると人生がもっと楽しくなりますよ。デイトはまさにさまざまな世界がリンクする場所ですよね。今後は旬の食材をテーマにしたうつわと料理をつくるといった、料理教室とのコラボレーションも企画中です。

 

Profile
藤川 稔 | 陶芸家

1975年生まれ。2001年大阪芸術大学付属大阪美術専門学校卒。2003年より広島市安佐北区可部に窯を構える。大きな立体作品から小さな作品まで幅広く制作。「長三賞常滑陶芸展」「現在形の陶芸 萩大賞展」「京展」をはじめとするグループ展や個展各地多数。
Instagram:https://www.instagram.com/minorufujika/

 

※デイトワークショップスタジオは、2023年2月28日(火)を以て営業を終了いたしました。

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